「AI英会話は訛りを聞き取ってくれるのか」という問いには、その手前に答えるべき問いがある。
AIが相手にしている「英語」は、そもそも1つではないということだ。
AI英会話の中で音を受け取っている部品は、起動する前に「どの英語で聞くか」を1つ選んでいる。
その選択肢は、開発者向けの公式ドキュメントに全部一覧で載っている。数えられる。
そして選んだロケールによって、認識のしかたも、発音の採点のされ方も、聞こえてくる手本の声も変わる。
この記事では、AIの部品を売っている会社が公開している一覧を実際に数えて、「訛り」と呼ばれているものが仕様のどこで扱われているのかを開けていく。
サービスの順位づけはしない。どの国の英語が優れているという話もしない。仕組みの話だけをする。
【結論】AI英会話の訛りは「どのロケールを選んだか」でほぼ決まる
先に答えを置く。
AI英会話が「訛り」に対してやっていることは、次の4層に分かれている。
| 層 | 何をしているか | 英語で使える選択肢の数(実測) |
|---|---|---|
| ① 聞き取る | 音を英文テキストに変える | Azureは15ロケール/Googleは10ロケール |
| ② 採点する | 発音をスコアにする | 5ロケール(en-AU / en-CA / en-GB / en-IN / en-US) |
| ③ 抑揚を見る | 強弱・イントネーション・リズムを見る | en-US のみ |
| ④ 手本を出す | 合成音声であなたに聞かせる | Azureは英語14ロケール/Googleは4種類 |
⇒ 層が下に行くほど、使える英語の種類が急激に減る。
つまり「聞き取ってもらえるか」と「正しく採点してもらえるか」は、まったく別の話だ。
そして日本語話者にとっていちばん効くのは、この事実だ。
マイクロソフトの言語サポート表には、発音評価について「既定の言語は en-US です」と書かれている(Azure Speech の言語と音声のサポート)。
何も指定しなければ、あなたの英語はアメリカ英語として聞かれ、アメリカ英語を基準に採点される。
AI英会話が扱う英語は1つではない|Azureは15、Googleは10のロケールを持つ
まず、選択肢の数を自分で数えた。
マイクロソフトの「音声テキストロケール」の表には、全部で143のロケールが並んでいる。そのうち en- で始まるものは15あった。
en-AU(オーストラリア)en-CA(カナダ)en-GB(イギリス)en-GH(ガーナ)en-HK(香港特別行政区)en-IE(アイルランド)en-IN(インド)en-KE(ケニア)en-NG(ナイジェリア)en-NZ(ニュージーランド)en-PH(フィリピン)en-SG(シンガポール)en-TZ(タンザニア)en-US(米国)en-ZA(南アフリカ)
グーグルの Cloud Speech-to-Text V2 supported languages のほうは、en- で始まるロケールが10だった。
en-AU en-GB en-HK en-IE en-IN en-NZ en-PH en-PK en-SG en-US の10種類だ。
ここで注目したいのは、2社の一覧が一致していないことだ。
Azureにはあってグーグルの一覧に見当たらないものがあり(en-CA en-GH en-KE en-NG en-TZ en-ZA)、逆にグーグルにあってAzureの一覧に見当たらないものもある(en-PK)。
⇒ 「英語」という単位はAIの側に存在しない。存在するのはロケールという単位だけだ。
グーグルの基礎ドキュメントも、この点をはっきり書いている。「You specify the language (and national or regional dialect) of your audio within the request configuration’s languageCode field, using a BCP-47 identifier」(Speech-to-Text basics)。
言語だけでなく「国または地域の方言」まで含めて指定させる、という設計思想がそのまま書かれている。
AI英会話の訛り①|ロケールを選ぶと認識エンジンの中身まで入れ替わる
ロケールの違いは、名前のラベルの違いではない。
グーグルの一覧は「リージョン × 言語 × モデル」の組み合わせで並んでいる。つまりロケールごとに使えるモデルの本数が違う。
実際に数えると、こうなった。
| ロケール | 一覧に出てくるモデルの種類 | 本数 |
|---|---|---|
en-US | chirp / chirp_2 / chirp_3 / chirp_telephony / long / short / telephony / telephony_short / medical_conversation / medical_dictation | 10 |
en-GB | chirp / chirp_2 / chirp_3 / chirp_telephony / long / short / telephony / telephony_short | 8 |
en-AU | 同上 | 8 |
en-IN | chirp / chirp_2 / chirp_3 / long / short / telephony / telephony_short | 7 |
en-HK en-IE en-NZ en-PK en-SG | telephony / telephony_short | 2 |
en-PH | chirp_3 | 1 |
⇒ 同じ「英語」でも、選べる道具の数が10倍違う。
マイクロソフト側にも同じ傾向がある。
音声テキストロケールの表には、ロケール名の右に3つの追加機能の列がある。
「高速文字起こしのサポート」「モノリンガルポストストリーム絞り込みサポート」「多言語のストリーム後絞り込みサポート (プレビュー)」の3つだ。
英語15ロケールのうち、この3つすべてに印が付いているのは en-US en-GB en-IN の3つだけだった。残る12ロケールは印が1つだけだ。
これは英語の優劣ではなく、開発の投資がどこに集まっているかの記録として読むのが正しい。
AI英会話の訛り②|発音の採点は英語5ロケールでしか動かない
ここが、訛りの話でいちばん効く仕様だ。
マイクロソフトの言語サポート表には、「このセクションの表は、発音評価でサポートされている 33 のロケールをまとめたものです」と書かれている。
その33の中に入っている英語を数えたら、5つだった。
- 英語 (オーストラリア)=
en-AU - 英語 (カナダ)=
en-CA - 英語 (インド)=
en-IN - 英語 (イギリス)=
en-GB - 英語 (米国)=
en-US
聞き取りは15ロケールでできるのに、採点は5ロケールしかない。
この差が、体感としての「AIは私の英語を認識するのに、点だけ低い」の正体になりうる。
そして公式は、ロケールの指定を利用者側の責任だとはっきり書いている。
「発音の向上を学習または練習している言語を指定する必要があります」「たとえば、英国英語を学習している場合は、en-GB として言語を指定する必要があります」(Azure Speech の言語と音声のサポート)。
さらに、どのロケールを選ぶべきか分からない場合の手順まで書かれている。
「さまざまなアクセント モデル (es-ES、es-MX) を実行して、特定のシナリオに合わせて最高スコアを達成するものを決定できます」。
⇒ 公式が「複数のアクセントモデルを試して比べろ」と書いている。つまり、どのロケールで測るかによって点は動く前提だ。
AI英会話の訛り③|抑揚とリズムの採点は en-US だけで動く
訛りの正体の半分は、音そのものではなくリズムと抑揚だ。
そこを見ているのがプロソディ評価(ProsodyScore)で、公式の説明は「ストレス、イントネーション、話す速度、リズムなど、与えられたスピーチがいかに自然であるかを示します」となっている(発音評価を使用する)。
そして同じページに、太字の但し書きがある。「プロソディ評価は、en-US ロケールでのみ利用可能です」。
さらに AccuracyScore の粒度表には「音節レベル (en-US のみ)」と書かれている。
| 採点項目 | 何を測っているか(公式の記述) | 使えるロケール |
|---|---|---|
AccuracyScore | 音素がネイティブ スピーカーの発音とどの程度一致するか | 英語は5ロケール |
FluencyScore | ネイティブ スピーカーによる単語間のサイレント区切りにどの程度近づくか | 英語は5ロケール |
CompletenessScore | 入力参照テキストに対する発音された単語の比率 | 英語は5ロケール |
ProsodyScore | ストレス・イントネーション・話す速度・リズムの自然さ | en-US のみ |
| 音節レベルの精度 | 音節ごとの精度スコア | en-US のみ |
ここから読める結論は1つだ。
イギリス英語やオーストラリア英語で練習しているつもりでも、抑揚とリズムの診断だけはアメリカ英語のモデルでしか受け取れない。
これは体感ではなく、公式ドキュメントに書かれた仕様の差だ。
AI英会話の訛り④|あなたが聞かされる手本の声も偏っている
訛りは入力側だけの問題ではない。
AI英会話は音声合成であなたに英語を聞かせる。その手本の声の在庫にも、はっきりした偏りがある。
Azureのテキスト読み上げの一覧で、en-◯◯-◯◯Neural という形の音声名を数えた結果が次の表だ。
| ロケール | 音声名の数(実測) |
|---|---|
en-US | 60(HDなどの派生名まで含めると95) |
en-GB | 16 |
en-AU | 15 |
en-IN | 14 |
en-CA en-HK en-IE en-KE en-NG en-NZ en-PH en-SG en-TZ en-ZA | 各2 |
グーグルの Supported voices and languages のほうは、英語の表記が「English (US)」「English (UK)」「English (India)」「English (Australia)」の4種類だった。
⇒ 聞く練習の材料としても、手に入る英語の幅はこの範囲に限られる。
現実の英語話者の分布と、この在庫の分布は同じではない。
AI英会話だけで練習していると、耳がこの在庫の形に合わせて育つことになる。そこは道具の性質として知っておいたほうがいい。
AI英会話は「どの英語か」を自動では選んでくれない
「AIが勝手に判別してくれるのでは」と思うかもしれない。
言語識別(Language Identification)という機能はたしかに存在する。しかし、それが見ているのは言語であってロケールではない。
公式にはこう書かれている。「ダッシュ (-) 区切りで完全なロケールを指定する必要がありますが、言語識別では基本言語ごとに 1 つのロケールのみが使用されます。同じ言語に対して複数のロケール (en-US と en-GB など) を含めないでください」(言語識別を実装する)。
⇒ 「英語かどうか」は自動で分かるが、「どの英語か」は人間が先に決めておく仕様だ。
候補の数にも上限がある。「開始時点の LID には最大 4 つの言語を含めることができ、継続的 LID には最大 10 の言語を含めることができます」と同じページに書かれている。
さらに、外した場合の挙動も明記されている。
「音声サービスは、提供された候補言語がオーディオに含まれていない場合でも、それらのうちの 1 つを返します」。
候補になければ「分かりません」ではなく、候補の中で一番近いものを返す。訛りが強い入力ほど、この挙動の影響を受ける。
そしてOpenAIの文字起こしは、そもそも設計の粒度が違う。
公式の「Supported languages」には、渡せるコードの形式として「ISO 639-1 codes, such as en, es, and fr」「Selected ISO 639-3 codes, such as eng, spa, yue, and cmn」「Regional zh locale codes, such as zh-cn, zh-tw, and zh-hk」の3つが挙げられている(OpenAI Speech to text)。
地域つきのコードとして例示されているのは中国語の3つで、英語は言語コードの en として扱われている。
⇒ 使っている部品がどれかによって、「どの英語で聞くか」を指定できるかどうか自体が変わる。
AI英会話で日本語話者の英語はどう扱われるのか
日本語話者の英語は、上の15ロケールのどこにも専用の枠がない。
だから実際には、15のうちのどれかのモデルで無理やり受け止められていることになる。
では、そのときに何が起きるのか。これも数字で分解できる。
音声認識の精度は WER(単語エラー率)で測る。公式の定義は「認識中に識別された誤った単語の数を数え、その合計を、人間によってラベル付けされた文字起こしで提供された単語の総数 (N) で除算します」で、式は WER = (I+D+S)/N × 100 だ(テスト データに対するモデルの品質を評価する)。
- 挿入(I)=言っていない単語が増えた。公式は「オーディオがノイズの多い環境で録音され、クロストークが存在し、認識の問題が発生する可能性がある」と説明している。
- 削除(D)=言った単語が消えた。「多くの削除エラーが発生した場合は、通常、オーディオ信号の強度が弱いためです」と書かれている。
- 置換(S)=別の単語に置き換わった。「ドメイン固有の用語のサンプルが、ヒューマン ラベル付け文字起こしまたは関連テキストとして十分に提供されていない場合にしばしば発生します」とされている。
この分解が効くのは、「訛りのせいだ」と思っていたものの多くが別の原因だからだ。
単語が丸ごと消えるなら、まずマイクと距離を疑う。知らない単語が混ざるなら、まわりの音を疑う。
公式が示す品質の目安も具体的だ。「5-10% のWERは良質と見なされ、使用する準備ができています。WER が 20% であれば許容範囲内ですが、追加のトレーニングを検討することをお勧めします。WER が 30% 以上であれば、低品質であることを示しており、カスタマイズとトレーニングが必要です」。
そしてグーグルの基礎ドキュメントは、認識が返ってこないときの原因をこう書いている。「Unrecognized speech is commonly the result of very poor-quality audio, or from language code, encoding, or sample rate values that don’t match the supplied audio」。
⇒ 言語コードが音声と合っていないことが、認識失敗の原因として公式に名指しされている。
AI英会話の訛りを減らす方法|開発者側の作業と、利用者側でできること
訛りへの対応は、仕様として用意されている。
マイクロソフトのカスタム音声には、目的別にどのデータを使うかを示した表がある。
そこには「読み上げのスタイル、アクセント、または特定の背景ノイズの認識精度を向上させる」という用途が明記されていて、対応するデータ型は「オーディオ + 人間がラベル付けしたトランスクリプト」とされている(トレーニングとテストのデータセット)。
同じページには、集めるデータの条件も書かれている。
- 「データには、モデルに認識させる必要があるすべての音声の差異を含めます。アクセント、方言、言語の混在、年齢、性別、音声ピッチ、ストレス レベル、時刻など、多くの要因によって音声が異なる可能性があります」
- 「モデルが使用されるさまざまな環境 (屋内、屋外、交通騒音など) からのサンプルを含めます」
- 「実稼働システムで使用するハードウェア デバイスでオーディオを録音します」
この「オーディオ + 人間がラベル付けしたトランスクリプト」は、英語15ロケールすべてで使えると一覧に書かれている。
つまり、訛りに合わせてモデルを鍛え直す道は全ロケールに開いている。
ただし、これはサービスを作る側の作業だ。アプリの利用者が設定画面から押せるボタンではない。
なお、認識させたい固有の単語を先に渡す「フレーズ リスト」が使える英語ロケールは、一覧で数えると en-AU en-CA en-GB en-IE en-IN en-US en-ZA の7つだった。
⇒ 「訛りに強いAI英会話」は偶然生まれるものではなく、こういうデータ作業の積み重ねの結果として生まれる。
ここからは、利用者の側の話に移る。仕組みから言えることだけを並べる。
- 設定に言語の選択肢があるなら、狙う英語に合わせる。公式が「英国英語を学習している場合は
en-GBとして言語を指定する必要があります」と書いている以上、ここは効く。 - 抑揚の点数を見たいなら
en-USを選ぶ。プロソディ評価が動くロケールはそこだけだと明記されている。 - 点が低い日は、まずマイクと環境を疑う。削除エラーは信号の弱さ、挿入エラーはノイズとクロストークが主な原因だと公式が書いている。
- 採点を安定させたいなら、読み上げの形にする。参照テキストを設定しないスクリプトなしの評価では「使用される音声テキスト変換 (STT) モデルは、STT Azureとは異なります」と書かれている。
- 複数のロケールで試して比べる。これは公式自身が推奨している手順だ。
逆に、仕組みの側から言えないこともはっきりしている。
「日本語話者の訛りを何点まで消せるか」は、どの公式ドキュメントにも書かれていない種類の話だ。
書かれているのは、何を基準に測っているかだけだ。AccuracyScore の定義は「音素がネイティブ スピーカーの発音とどの程度一致するか」であって、「通じやすさ」ではない。
そこを取り違えなければ、点数は十分に使える指標になる。
AI英会話の訛りに関するよくある質問
Q. AI英会話はイギリス英語やインド英語も聞き取れるのか。 A. 聞き取りのロケールとしては用意されている。Azureの音声テキストロケール表には en-GB も en-IN も載っていて、英語だけで15ロケールある。ただし聞き取れることと、細かく採点できることは別の仕様だ。
Q. アメリカ英語以外で発音を採点してもらえるか。 A. 発音評価でサポートされている33ロケールのうち、英語は en-AU en-CA en-GB en-IN en-US の5つだ。この5つなら採点できる。ただしプロソディ評価と音節レベルの精度は en-US のみと明記されている。
Q. 設定を何も変えなければ、どの英語で測られるのか。 A. 発音評価について「既定の言語は en-US です」と公式に書かれている。何も選ばなければアメリカ英語の基準になる。
Q. 自分の訛りをAIが自動で判別して合わせてくれるのか。 A. 言語識別は言語レベルの機能で、「同じ言語に対して複数のロケール (en-US と en-GB など) を含めないでください」と書かれている。どの英語で聞くかは、人間が先に決める設計になっている。
Q. 認識されないのは自分の発音が悪いからなのか。 A. そう決めつける前に確認できることがある。グーグルは認識が返らない原因として「非常に低品質なオーディオ」と「言語コード・エンコード・サンプルレートが音声と一致していないこと」を挙げている。設定側の不一致でも同じ症状が出る。
まとめ|AI英会話の訛りは、性能ではなく仕様の地図で理解する
もう一度整理する。
- AIの側に「英語」という単位はない。あるのはロケールで、Azureの音声テキストロケール表では英語だけで15、グーグルのV2の一覧では10あった。
- 採点できる英語は5ロケールだけ(
en-AUen-CAen-GBen-INen-US)。聞き取れる範囲より明確に狭い。 - 抑揚とリズムの採点は
en-USのみ。音節レベルの精度も同じくen-USのみと公式に書かれている。 - 手本の声の在庫も偏っている。Azureの音声名は
en-USが60に対し、10のロケールは各2だった。 - どの英語で聞くかは自動では決まらない。言語識別は言語レベルまでで、ロケールは人間が指定する仕様になっている。
⇒ 「AI英会話は訛りに弱いのか」ではなく、「いま自分はどのロケールの物差しで測られているのか」で見る。そこが合っていれば、点数は毎日使える道具になる。
※本記事の一次ソースはすべて2026-09-11に各公式ドキュメントで確認した。仕様は更新されるため、最新は各公式ドキュメントで確認してほしい。
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